取引先が倒産(あるいは倒産寸前)の場合に真っ先に頭に浮かぶのは、商品の引揚げではないでしょうか?

出荷した商品が取引先の店舗や倉庫にまだ眠っている。しかも、売掛金が回収できる見込みはほとんどない。そうとなれば、トラックを飛ばして納入した商品を引揚げに行きたくなるのは、当然の人情です。

しかし! 商品の引揚げには、注意しなければいけない点があります。


①黙って商品を引揚げると窃盗罪で逮捕されます!

倒産情報を掴んで、取引先へ飛んでいったら先週納品した商品が置いてあったとしましょう。

「そんなの持って帰って当然だろう。

指をくわえていたら、他の債権者に持っていかれちゃうよ!

取引先は倒産したんだからいろいろ言う資格なんてあるもんか!」 

誰もがそう考えると思います。

でも、法律では一筋縄ではいきません。 

倒産者にいったん納入した商品の所有権は倒産者にあります。

それを代金の支払がないからといって無断で持ち帰ると窃盗罪に問われる可能性があります。

くれぐれも無断で商品を引揚げること避けなければなりません。

②詐害行為として後で破産管財人から返還させられるかも?!

破産管財人は破産者の財産を全債権者に平等・公平に分配する義務を負っています。

債権者が抜駆け的に行った回収行為に対しては、否認権を行使して争ってくる可能性があります。

そうなると苦労して商品を引揚げても元も子もなくなりますよね。

2008年12月11日

あなたは倒産情報を掴んで取引先へ飛んでいった。

すると運良く先週納品した商品がまだ倉庫に置いてあった。

でも、社長はどこかに雲隠れしていて社員が数名途方にくれて倉庫の中にたむろしていたとします。

 

商品引揚げのセオリーとしては、社長から念書を取るとなります。

 

営業マン : 『社長、このたびは大変でしたねぇ。

         この商品の代金支払ってもらえますか?

         無理なら引揚げていきますけど、

          もちろん構いませんよね』

 

社長  :   『あぁ。もちろんいいよ。』

 

営業マン : 『じゃ、念書に署名と印鑑ください。』

 

これで堂々と商品をトラックに積むことができます。

でも、それは社長がいればこそです。

 

今回のケースのように、社長がいない場合はどうでしょうか?

 

営業マン : 『この商品、代金をもらってないのでうちでもらって帰りますけど、
         いいですか?』

 

社員   :  『・・・・。 今、社長いないんですよ。

         社長に聞いてみないとわかりません。』 

 

営業マン : 『・・・・。(困ったなぁ)』

 

この状態で商品を引揚げると窃盗罪に該当する可能性が高いと言えます。

今の返事の場合、『社員は社長の了解がないので、持って行ってもらっては困る』という意思表示をしているとなるでしょう。

 

 『もらって帰りますけど、いいですか?

 

 

この場面で『いいですか?』と聞かれて、『いいです。』と答える社員はいないでしょう。

ここに無理があったというべきです。

 

では、どうするのか。

 

 

営業マン : 『こんにちは。○○商事です。』(できるだけ大声で)

       『うちが納品した商品持って帰りますね。』

                          (できるだけ大声で)

 

 

社員  :   『・・・・。』

 

 

この場合はどうでしょうか?

 

 

私はギリギリセーフだと思います。

なぜなら、破産会社の社員が黙認したと言えるからです。

積極的な了解の意思表示はしていないが、反対もしなかったと主張できるからです。

 

 

 

ただ、くれぐれもご注意いただきたいのは、これは自社商品の引揚げに限るということです。

他社が納品している商品まで持ち出すには、明確な相手の了承がないと窃盗罪に問われることになるでしょう。 

 

2008年12月19日 

取引先の倒産危険情報をいち早く掴んだあなたは、取引先へ飛んでいったとします。

そこには自社商品はもうほとんどなく、

自社以外の商品が置いてあったとします。

営業マン : 『社長、このたびは大変でしたねぇ。

         うちの納入した商品はもう残っていないみたいですね。

         あそこにある品物をもらっていっていいですか?』

社長  :   『あんたには世話になったしなぁ。もっていってくれていいよ』

 

営業マン : 『ありがとうございます。』

 

社長  :   『とりあえず、一筆だけ交わしておこうよ』

 

さて、この場合どうしましょうか?

今から回収しようとしているのは自社の商品ではありませんので、

社長の「一筆」はありがたい話です。

こちらとしても何らかの書面があれば後から、

 

『勝手に持って行かれた!』

 

と言われなくて済みます。

 

この場合に考えられるのは代物弁済譲渡担保です。

 

 

【代物弁済】  (念書書式)

100万円の売掛金が残っていた場合で考えてみましょう。

代物弁済はその法的な性格上、

持って帰る商品によっていくらの債権が消滅するかを合意する必要があります。

ここが代物弁済の厄介な点です。

緊迫した状況で、この商品がいくらで売れるかを考えいる余裕はないはずです。

 

仮に全額を消滅させると決めたとしましょう。

後になって40万円でしか売れなかったとしても、100万円の債権は全額消滅しています。

 

 

【譲渡担保】  (念書書式)

一方、譲渡担保であれば代物弁済のようなことは起こりません。

その商品が40万円でしか売れなかった場合には、

残りの60万円の売掛債権で破産手続等に参加することができます。

 

特別な事情がないのであれば、譲渡担保契約の形の一筆を交わせばいいと思います。

 

 

※自社以外の商品を持ち帰った場合には、後日、

詐害行為として取消訴訟を起こされる可能性はあります。

(実務としてはまれですが・・・)

このあたりは顧問弁護士さん等にご相談ください。

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